BtoBの展示会では、多くの名刺を獲得しても、その後のマーケティング施策が十分に行われず、商談や受注の機会を逃してしまう企業が少なくありません。
特に「出展して名刺を集める」こと自体が目的化し、展示会後のフォローが後回しになると、せっかく得たリードが活用されずに終わるリスクが高まります。
こうした状況を変えるためには、展示会直後からデジタルとアナログの両面でのフォローが重要です。本記事では、具体的なアプローチ方法と成功事例を交え、「名刺の山」を「宝の山」に変えるBtoB展示会マーケティングのポイントを解説します。
なぜ「展示会に出展して終わり」になってしまうのか?陥りやすい失敗パターン
展示会は一度に多くの来場者と接点を持てる貴重な機会ですが、同時に、その後の関係構築をどのように設計するかが問われます。
「名刺交換=ゴール」という誤解と機会損失のリスク
BtoBの展示会で最初に陥りやすいのは、名刺交換をゴールと考えてしまうことです。多くの名刺を集めたことで安心し、次のアクションが疎かになるケースが目立ちます。
名刺交換直後のタイミングを逃すと、相手の記憶が薄れ、商談につながる可能性が大きく下がります。
営業管理システムを提供するSales Go社では、展示会のアフターフォローにおいて、名刺リストをデジタル管理し、24時間以内(翌日中)に初回メールを送ることで、商談創出や受注獲得が増加する可能性があると推奨しています。(参照*1)。
一方、紙の名刺を社内で保管するだけの運用や、担当者ごとにバラバラなフォローが行われる体制では、リード情報の共有が滞り、組織的なアプローチが難しくなります。展示会は多くの顧客候補と接点を持つ好機ですが、名刺交換はあくまでスタート地点であると捉えなければなりません。
アナログ管理の限界と「鉄は熱いうちに打てない」問題
アナログ管理のままでは、タイムリーなフォローが難しいという課題もあります。BtoBの取引は複数の意思決定者や段階を経て成立するため、検討中の担当者に迅速にアプローチできなければ、他社に先を越されることもあります。紙の名刺や手書きメモを頼りに情報を共有していると、担当者間の連携に時間がかかり、初動が遅れがちです。このような状況は「鉄は熱いうちに打てない」状態を生み、展示会後のリードの温度感を下げてしまいます。
実際に人材派遣などを手掛ける「株式会社グロップ」は、「展示会で名刺を集めても、後日連絡が取れずに活用できなかった」という課題から、MAツール(マーケティングオートメーション)を導入し、集客やフォロー体制を強化しています。(参照*2)。名刺データを早期にオンライン化し、ステップメールやターゲティング広告などに活用できる仕組みを整えないと、せっかくのリードを逃してしまうリスクが高まります。
営業マン任せのフォローが引き起こす「案件の放置」
獲得した名刺のフォローを営業担当者に任せきりにすると、リードを十分に育成できないことも多くなります。
BtoBの商談は検討期間が長くなりやすく、営業担当が他の案件との優先度調整に追われ、フォローが後回しになることがあります。展示会後にリードが大量に発生しても、フォローの順番やタイミングが曖昧だと、見込み度の高い顧客を放置してしまうリスクが生じます。名刺交換だけで終わり、後日うまくアプローチできなかった例も少なくありません(参照*3)。
また、名刺1枚あたりの単価やROI(投資対効果)を把握していない企業も多く、フォローが遅れて受注につながらず、投資効果を計測できないまま終わることもあります(参照*4)。
展示会出展には人件費やブース費用など大きな投資がかかりますが、フォロー体制と管理方法が整っていなければ、案件放置による機会損失が発生しやすくなります。
成功企業はここが違う!「名刺獲得後」のデジタルマーケティング施策
お礼メールとステップメールで記憶に残す仕組み
展示会後、来場者へ素早くお礼メールを送ることは、信頼関係を築く第一歩です。来場者は当日多くのブースを回るため、印象が薄れやすい傾向にあります。そのため、可能な限り当日中、遅くとも翌営業日以内を目安に「展示会ブースにお越しいただきありがとうございました」といった内容を送り、記憶が鮮明なうちにアプローチすることが大切です(参照*5)。
さらに、ステップメールを活用し、一定期間をあけて複数回フォローを行うことで、相手の潜在的なニーズを喚起できます。
例えば、初回は製品概要とお礼、2回目は成功事例の紹介、3回目は資料ダウンロードの案内など、段階的に情報を提供します。前述した、株式会社グロップでは、展示会直後のメール配信で開封率30~40%を維持し、継続的なメルマガ配信によって毎月商談を獲得する流れを作っています(参照*2)。
このような仕組み化により、単なる名刺交換から一歩進んだ「見込み顧客の育成」が可能になります。
MAツール活用による「確度の可視化」
デジタルマーケティングで効果を発揮するのがMAツール(マーケティングオートメーション)です。MAツールを使えば、メールの開封率やリンクのクリック数などを自動で計測し、見込み度合いをスコア化できます。
BtoBでは1件の成約までに複数の接点が必要なため、顧客の反応度合いをリアルタイムで把握し、スコアが高いリードを優先して対応することで効率が向上します。一般的にメルマガの開封率は15~20%が目安ですが、BtoB領域では30%以上になる例もあります(参照*6)。
MAツールを活用することで、開封やクリックの履歴から興味の高い分野を把握し、次のアクションを自動で配信することが可能です。
これにより、検討に前向きなリードをリアルタイムで特定し、最適なタイミングで営業担当へ引き継ぐことが可能になります。
リターゲティング広告で検討期間中の離脱を防ぐ
BtoBでは検討期間が長く、見込み客が自社サイトを一度閲覧した後に離脱することも多くあります。そこで、リターゲティング広告を活用し、一定期間ネット上で自社の商品やサービスを再度訴求することが有効です。お礼メールや資料ダウンロードの後、導入を検討している相手に広告を通じて再接触することで、認知を維持しながら商談につなげやすくなります。
さらに、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)と組み合わせてアクセス分析を行うことで、最適なタイミングで電話や追加メールを送る精度も高まります(参照*1)。このようなオンライン広告との連携が、名刺交換後の盛り上がりを継続させ、「熱いうちに打つ」フォローを実現するカギとなります。
オフラインとオンラインを繋ぐ「勝ちパターン」の導線設計
展示会専用ランディングページの役割とCV設計
展示会とその後の受注率を高めるには、オフラインとオンラインを一体化した導線設計が重要です。まず、展示会用に作成したランディングページ(LP)を用意し、ブース来場者がアクセスしやすいよう案内する方法が有効です。LPには資料請求フォームや問い合わせフォーム、導入事例などを集約し、会場で素早く説明できる流れを作ります。
例えば「興味を持った方に、ブースでスマホからアンケートに回答してもらい、フォーム送信で追加資料を受け取れるようにする」といった仕組みを取り入れる企業もあります。展示会だけでなく、他のマーケティング施策とも一貫性を持たせ、LPのコンバージョン(CV)ポイントを分かりやすく設定することで、来場者をスムーズにオンラインへ誘導できます(参照*7)。
QRコードとWebコンテンツを活用したブース内でのリード獲得
ブース内でのリード獲得を加速するには、QRコードやWebコンテンツの活用が効果的です。パンフレットや名刺にQRコードを印刷し、スマホからデモページや製品紹介動画へアクセスできるようにすれば、来場者が興味を持ったタイミングを逃さず情報提供が可能です。獲得した接点情報は即座にデータベースへ取り込み、迅速な追客へと繋げましょう。名刺交換だけで終わらず、資料請求やテスト導入の申し込みフォームへ誘導し、より深い接触を促すことが重要です(参照*3)。
見込み度の高い層には展示会場で次の面談日程を案内し、関心がありそうな層には資料請求やメルマガ登録をすすめるなど、来場者の温度感に合わせて「次のステップ」へ誘導する導線設計が成果を左右します。
セミナー動画やホワイトペーパーを活用した事後フォロー事例
BtoB取引では商談まで時間がかかるため、展示会後のフォローとしてセミナー動画やホワイトペーパーを配信する企業も増えています。展示会でブースを訪れた人が商品に興味を持っても、詳細情報や成功事例を理解するには時間が必要です。
そこで、後日メールで「セミナー動画を無料公開しています」「新しい課題解決ホワイトペーパーを用意しました」と案内し、検討ステージを一歩進める狙いがあります。海外では、展示会後の動画配信で理解促進を図り、閲覧データをMAツールで把握しながら連絡を入れる手法が定着しています。
来場者情報を購買フェーズごとに分類し、認知段階・検討段階・最終決定段階へ適切なコンテンツを提供するアプローチも有効です(参照*1)。また、ブランド訴求を意識したブースデザインやゾーニングで、来場者の課題別に商材を見せる工夫も多くの成功企業が取り入れています(参照*8)。オンラインとオフラインの両面で連携し、情報提供と信頼構築を続けることが、受注率向上のカギとなります。
まとめ
BtoBの展示会マーケティングを成功させるには、名刺交換だけで満足せず、取得したリードをどのように育てるかが重要です。デジタル化したリストやメール配信、リターゲティング広告の活用により、最適なタイミングで効果的な情報を届ける仕組みを作ることが、来場者を商談や受注につなげる近道となります。検討期間を丁寧に支えるフォロー体制があれば、ROIの向上や新規顧客の増加にもつながります。
本記事で紹介した施策は、すべてがすぐに完璧に機能するわけではありませんが、展示会とオンライン施策を連携させ、メールや広告、動画を組み合わせた継続的なアプローチを行うことで、着実に受注比率を高めることが可能です。名刺の山を宝の山に変えるためにも、まずは自社で取り組みやすい施策から着手することをおすすめします。
監修者
小池 正也(こいけ まさや)
Yahoo! JAPANの広告代理店にてWEB広告の運用に携わる。2009年、茨城県での事業立ち上げを機にUターンし、地域に根ざしたWEBマーケティング支援をスタート。これまで300以上の企業や店舗のWEB広告に携わる中で、広告を出すだけでは成果につながらないという課題を実感。
現在はWEBマーケティング全般に携わり、企業の魅力を引き出すWEBサイト制作や、Google広告・Yahoo広告・DSP広告・SNS広告などの運用、Googleアナリティクスを活用したアクセス解析を行う。現場での経験を活かした、改善提案を行っている。
出典
- (*1) SALES GO株式会社 – 展示会後のフォローを成功させるポイントとは?事前準備や手法も紹介
- (*2) カイロスマーケティング株式会社 – 「Kairos3」
- (*3) 株式会社ビークス【サービスサイト】 – 展示会を成功させる14のノウハウ! 具体例やポイントとともに解説
- (*4) 展サポ – 展示会の出展による費用対効果はどれくらい?費用対効果を高める方法とは|展サポ|展示会の装飾から集客までトータルサポート
- (*5) 展サポ – 【例文つき】効果的な展示会お礼メールの書き方|手順やポイントも徹底解説!|展サポ|展示会の装飾から集客までトータルサポート
- (*6) 業界別メルマガの開封率とクリック率の目安って?効果測定の正しい方法とは
- (*7) 展示会後のフォロー:事前準備と多様なアプローチで商機を拡大する方法 – 議事録総合研究所
- (*8) 株式会社博展 HAKUTEN | Communication Design® – 展示会をブランディングに活かすなら?取り入れたい施策と事例を紹介

